応援している若手芸人 その3 にぼしいわし
前回の投稿からちょっと時間を置きすぎたが、改めて。
今回ご紹介するのは「にぼしいわしさん」。大阪を拠点とするスパンキープロダクション(*1)所属の芸歴7年目(所属事務所歴は3年目)の女性コンビです。
とかく女性漫才師、特に若手と呼ばれるうちは、とびぬけて目立たないと印象に残らない。というのは若手芸人を応援する層は若い女性が中心となっているのがご時世だから。その中で同性のハートをつかめる女性芸人は、「女性あるある」をネタにはじけるキャラとそれをおさえる、あるいは同調するというコンビネーションを成立させているコンビ、または身近に起こった出来事を力技(ちからわざ)でつなげていくコンビ、あるいはちょっと年上の「姉御風」でカッコいい芸人さんとその相方のコンビといったところになるだろう。
これをベースにちょっとプロトタイプを崩した方法論があるとすれば、「女性性」を捨て下品なキャラをみせる方法、勘違い(イタい)女を演じる方法、インキャを前面に出す方法などがあるか。
ここであえて「芸がうまい女性コンビ」というバリエーションを外したのは、お笑い好きな若い女性層には、芸歴が中堅以上でないと「認めない」という空気が、ア・プリオリに(当所から組み込まれているかのように)存在しているのではないかと思われるからだ。
△向かって左:にぼし(ボケ担当)・右:いわし(ツッコミ担当)
※スパンキープロダクション宣材写真より
なんだか固い文章を書いている。しかもコンビの例を挙げないで文章を進めているとは思う。というのは、この二人はちょっと色合いが違うコンビであり、ぜひ面白さを知ってほしいと思いが「分析風になってしまう」ことを承知の上で書いている。ネタバレにならないように気をつけながら引き続き筆を進めよう。
にぼしいわしさんたちをインディーズライブで初めてネタを観たときに、先日突然解散したミーハーパイソンズさんとは違った衝撃が走った(*2)。「なんだ?この味わいのあるボケ。それに対して正面(90°)からではなく、それこそ60~80°くらいの斜めからの角度で、1.5秒くらいの間をおいて入ってくる突っ込みは!」吉本の漫才劇場入りを競う若手芸人のバトルの場「Up To You」ではお目にかかれない芸風。この二人にものすごく興味がわいた。それから生の舞台を6回観た。3回目観た後で彼女たちのことを書こうと思ったけど、もう少し観ていくと、まだ新たな発見があるんではないかと思い、今日に至った。
所属事務所のスパンキーは彼女たちの漫才動画をあげてくれている。時間軸をさかのぼって動画を観ていくと、この1年半くらいで格段に舞台運びがうまくなっていることと、顔つきに自信がついてきたのがわかる。それは単に舞台数を思いっきり踏んできたことだけではない(*3)。芸に真摯に向き合ってきたという軌跡が伺える。
かつては漫才の定番とでも言うか、ボケのにぼしの「見た目のヘンさ」をいわしが突っ込むというスタイルも垣間見えていたが、ここのところのネタ運びは、思わずうなってしまうようなしかけを組みこませている。それがもっとも発揮されたのが「The W」予選1回戦でかけた「トイレ掃除おばさん」のネタだった。
ありきたりなTPOを設定し、そこに「不条理なストーリー」の体現者としてにぼしを解き放つ。おそらくお客には「自在に動いているよう」に見えているにぼしが、TPOにからめとられそこから脱出できないというシチュエーションを、俯瞰者としていわしが「注釈」のようにそのアクションを、1.5秒遅れくらいで解釈し、3~5の解釈のうち1・2くらいの割合で、ある種「哲学じみた」突っ込みを入れていく。
本人たちが意識しているかどうかはさておき、「ドラマトゥルギー的手法」をもって漫才を展開しているのだ。
この論理と非論理の境(はざかい)に自分たちを落とし込む舞台運びに、もうひとつ重要な要素を構成しているのが、二人の「動線」である。多くの漫才コンビが立ち位置から動かない、あるいは動いても半径60㎝ほど(この距離は大阪人の個人テリトリー、つまりこれ以上近づくと不快に感じる距離)、そうでなければ話芸ではなく、動きで見せるネタとして舞台空間を大きく使うのだが、このケースだとストーリー展開で笑わせるという大味な漫才になり、それこそ「話芸」からは「距離を置いて」しまうことになりかねない。
二人の漫才の味となるベースとして、「ザ・話芸」というか、コンビ間の微妙なズレの面白さにあるのだが、試みとしていくつか動きの入るネタも披露している。半年ほど前にはあるネタでいわしが立ち位置の上手に消えるというのがあったが、これは高度成長時代からよく採られたた手法で、「技―わざ」というほどのことではない。
しかしトイレ掃除おばさんのネタでは、二人の動線が図のように展開され、小劇場のステージ空間を効果的に使って物語を演出している。奥行と横幅を使いながらおばさん(にぼし)の仕事空間を確保し、それを俯瞰しながら語りかけるように、独白調でチャチャ入れ風の「注釈」をいれる(いわし)。つまり物語における実質上の登場人物はにぼし一人で、いわしはナレーション的な注釈を入れる役割である。それぞれの空間を創り出して役割を遂行していく。
つまり「二人が居る空間」が異なるという暗黙の了解を、舞台の空間をうまく使って展開しているということ。こういった仕掛けを(おそらく「直勘」で構成しているのだろうが)用いながらネタを進めている。何気にステージをみていると気づかないだろうが、ここにきて二人は、それこそ「ステージ」が一気に上がったと、少なくともワタシにはそう感じられる。
この空間の使い方を「時間軸」として用いはじめると、まさしく「オンリー・ワン」のコンビとしてゆるぎない領域を作っていける可能性があると、勝手にだが思うのだ。
この二人は若手とくくられるけど、実に「玄人受けする」コンビと言えよう。そしてこれを期ににぼしのルックスいじりは封印となるのではないか。自らの芸風が確立されると、普通の芸人が手軽にやってしまう、ルックスをいじる必要がなくなるからだ。
まあ、それ以上に二人が少しずつ自信が出てきて、「いい顔」になってきたこともあるけど(^_-)-☆
*1:スパンキーさんは東京へも進出を果たしている
*2:ミーハーパイソンズさんは書く前に「かけなく」なってしまった。
*3:松竹芸能をはじめスパンキーやUMEDA芸能所属の「やる気あふれる芸人さん」は、インディーズライブなどで場数を踏んで(お客がひとケタのライブで悔しい思いなども飲み込みながら)成長していってる。
応援している若手芸人その2 まるちゃん(元ぱぁりぃパンダ)
【ぱぁりぃパンダ】
ヨシモトクリエーティブ・エージェンシー大阪所属の大阪NSC40期生。まる・あさり二人の同期コンビ。小柄でベビーフェイスの二人が醸し出す漫才でのつかみは「レッツぱぁりぃターイム。ツッタツッタ」「いや、時間のムダ~」という定型ワードから入っていた。現在芸歴2年目。
だが、「かわいい女芸人」の宿命で、女子に爆発的な人気を得るのはなかなか難し
い。ウィンウィンのところでも書いたが、若手お笑い芸人のファンの大半は若い女子で占められているため、女子が女芸人のファンになるパターンとしては、よほど芸が研ぎ澄まされているか、上から目線で見ていられるか、またはアネゴ肌でないと、爆発的な人気は得にくい構造になっている。
二人は熊元プロレスさんのような「振り切った空回り女子力」で共感を得るキャラでもないし、稲田美紀さんのように先輩男性芸人をもソデにしそうな空気感も出せない。まだ芸が研ぎ澄まされる年齢でもない。
ファン層は同年代の友達感覚を持てる女子と、二人をカワイイと感じるオジサンということになろう。そもそも同世代の男子はお笑いになかなか興味を持てないので、女芸人のファンとはなりにくい。女子に「妄想を描く年齢の男子」が、下世話なことまで話を展開する、プライベートで男芸人たちと訳の分からないノリをしている若手女芸人をなかなか好きになれないという訳だ。
芸人に関わらず仕事のキャリアが3年くらいになってくると、たとえ夢一杯持っている若者でも、自分の将来について不安になってくる頃。公務員や大企業のように給与が等級・号俸で決まっているならともかく、芸人という全く不安定な人気稼業。しかも吉本の若手芸人には舞台での芸を客が判断し、数回のバトルを繰り返し漫才劇場メンバーというステータスをつかんでいくという実力の世界。ほとんどノーギャラのような状態でステージに立ち、生活費をバイトで稼ぎ出すというシビアな生活が続く。
ただし大阪ヨシモトに所属していると、カタチにはならない芸人同士の互助アソシエーション(伝統的なつながり)があり、東京で無所属のまま芸人活動をすることを考えると、最低限食っては行けるのだが…
ぱぁりぃパンダに話を戻そう。ワタシはまだ歴は浅いが、ほんの微力だがまるちゃんを応援している。最初は彼女を誤解していた。ときどきふっと意識が違うところへ行っているのか、不愛想に見える瞬間がある。しかしそれは彼女のキャラでありクセでもあって、他意はないことがわかってきた。「ツンデレ」ということでもない、とても素直で、バイト疲れでヘトヘトになっているとき以外はお笑いのことを常に考えている前向きな芸人さんだ。
ただ今年に入ってからくらいだろうか、相方のあさりちゃんとなかなか連絡がとれなくなり、ネタ合わせはおろかステージのエントリーもままならなくなってしまい、とても悩んでいるように見えた。決して悪口は言わない彼女だから、相方をなじったりすることはなかった。言いたいことはたくさんあったろうに。
結果4月をもってぱぁりぃパンダは解散。そのステージは淡々とこなし、「普通に」終了した。現在まるちゃんはピン芸人として活動をしている。しかし心から相方を探しているのだが、コンビ解消した後半年間は再結成できないというヨシモトの約束事があって、現在は「ユニット」として(バトルには参加できないけど)相方探しをしている。5月16日は「しるつん」というフランス・日本ハーフ(しかしてココロはコテコテの関西人)の女ピン芸人とのユニットでエントリー。
下ネタやあるある女子トークはやらない方がいいなと思わせるような雰囲気を醸し出していた。なんだか波長が合ってるなと、出番が終わってそんな話をすると、元々コンビだったとのこと。なぜコンビを解消したかは聞かないでおいた方がいいなと思い、これからも機会があったらユニットで出演したいとの意向だけを聞いて、その場を去った。
最後のレッツぱぁりぃパンダタイム
— まる🐼 (@panda_bar5) April 5, 2019
お届け〜 pic.twitter.com/hMvG4M0vSg
二人最後の動画:左まる・右あさり ※ただし立ち位置は逆
あさりちゃんはパリピになっていたようだが、本人が4月初めのツイッターで告白したことには、ちょっと心に重いものを持ってしまっていたようで。本人も辛かったのだろう。それを近くでみていたまるちゃんも辛かったろう。後で知ったこと。
まるちゃんは先輩芸人に可愛がられるようなキャラをしている。今は少し上の先輩に可愛がられているけど、もっと上の先輩に可愛がられ、ネット配信、地上波のスタッフの目にとまり、彼らからも可愛がられ、食レポロケから入って「お茶の間」(リビングww)の前の皆さんにも愛されるような芸人に育っていって欲しいと思う。辛いものを口にした時のリアクションが、オーバーでなくいかにも演技なきリアクション。これはぜひテレビのスタッフさんの目に触れるようにと思うのであります。
ちなみに…まるちゃんはウィンウィン鷺森世利加さんの高校の1年後輩(本人たちは在学時代には交流がなかったらしいが)。
応援している若手芸人 その1 ウィンウィン
【応援している若手芸人】
その1 ウィンウィン
NSC39期生。今年4年目。向かって右が鷺森(サギモリ)…ボケ担当、左がちーぼー…ツッコミ担当
令和最初のUP-TO-YOU(漫才劇場メンバーになるための予選バトル)、5月2日17:30 道頓堀ZAZA BOXにて開演。出演21組中17番目の出番。彼女たちのステージを観るのは3回目。同じネタをかけているが、だんだん練りあがってきている。
二人の持ち味はツッコミとボケのタイムラグ。漫才の流れに乗ってサギモリがテンションの抑揚を抑えたままボケ続け、その2つくらい前のボケを7割テンションくらいでちーぼーが拾い、ツッコミを入れる。ドッカンとウケるタイプではなく、テンション細〜くジワっと笑える芸風。「ジワる漫才」の王道を行く。いわゆる「引き芸」のバリエーションのひとつだ。
他の出演者にはこのバトルが初舞台という、この春NSCを卒業したばかりの新人4組も含めて、爆発力を持った芸人であふれかえっている。この中で「ジワる漫才」は、マニアのココロにはグッとくるが、さすがに「1位」はかなりキツイ。ちなみにこのバトルで1位を取った者だけが「決勝」に進出し、そこで優勝してはじめて「漫才劇場」の若手メンバー(翔メンバー)とバトルすることができるシステム。しかしてそこは入れ替え戦であり、メンバーになれたとしても、またこのUTYに戻ってくる者もあまたいるわけで…
テレビの賞レースでは、どうして吉本所属芸人ばかり出るんだ?テレビ界を牛耳っているからか?と思われる節もあるかもしれないが、吉本若手芸人は日々こういったバトルの中で悩み、苦しみ、仲間同士で芸論を闘わせたり慰め合ったり、またはライバル関係を作ったりして日々努力を重ねている。その結果が賞レースでの成果となっている。
ウィンウィンの芸風は、いくつかある漫才の手法の中でも、勢いと力で持っていく若手の主流の芸風ではない。これが男性コンビなら漫才のバリエーションのひとつとして「席は空いている」し評価されるだろう。理由はお笑いのファンの7割程度が女性だから。その女性層に共感を得られないと、バトルでは票を集めにくい。
逆手に取ると、①女性の共感を得た、あるいは②女性たちが憧れるライフスタイルを持った、③女性たちが優越感を持てる女芸人であれば、お笑いファンの絶対数が多い女性の心をつかめるのではないか。
例えば①は海原やすよ・ともこさん、②は紅しょうが稲田美紀さん、③は同じく熊元プロレスさん
ここに「多彩で我が道を行く女芸人」も②のバリエーションに入るかもしれないが、稲田さんは美人でかつツンデレ、下世話なところもあけすけだから女性の共感が得られ、「姉御」としての人気が成立するが、多彩で美人では女性ファンはつかない。そこにおデブちゃんと言う味付けがなされると、一気にコアな女性ファンが広がる。それが堀川絵美さん。バスガイド歴で磨いた声はゴスペルもいい線までいってるし、ミュージカルのことを語らせ、歌い踊らせば、そら、アナタ…
さて、今後ウィンウィンはどこに軸足を置いていくのだろうか。ルックスが中流層の普通のお嬢さん(ステージ衣装も白シャツとマリンブルーよりやや淡めのスカート。タイも同じ色)で清楚系。下ネタや下品な言葉は似合わない。「女子あるある」や「彼氏できたら…」と言うありふれた展開も、マッチしない。
ここはサギモリ(鷺森)さんのボケの領域が広がることに期待。
⑴ 1998年生まれと言う世代にもかかわらず、ビートルズが好き。ビートルズファンになったきっかけがジョンのルックスからという、ビートルフリークにとっては、「そんなしょうもないきっかけ…」と言うかも知れないが、どんなきっかけだろうが関係ない。好きなものは好きでいい。凝り固まったビートルフリークおぢさんの脳内改革が必要。「オレたちの永遠の神ビートルズを、こんな若い女の子が好きになってくれるなんて!」ってね。
ビートルズに関する情報をもっとインプットし、若い女性にも届く言葉をチョイスしてその良さとヘンなエピソードについてボケ続け、チンプンカンプンのちーぼー(おそらくそれが一般の若い女性たちのスタンダード)が、いつもの通り2ボケ前をおっかけてツッコんでいく。
⑵ 鷺森世利加(セリカ)と言う名前から、トヨタセリカのいいとこやスカGとの違い、乗っていた人たちの種類の区分けなどをボケまくっていく。以下同じ…
このようなネタをする女性コンビはいないし、それをひき芸で展開するのはアリではないかな。この場合、ステージ衣装は、表面的には揃える必要はない。ビートルズネタはサギモリ一人がビートルズファッション、または簡便にTシャツで演じる。オチにちーぼーも同じものを下に着ていてそれを見せ、「なんや、アンタも着とんのかいな」なんて言うのも面白いかもね。
するとビートルズもトヨタセリカも経験してきたテレビ製作会社の50代男性ディレクターあたりの目にとまり、地上波出演のきっかけが生まれるかも。もちろん無料動画配信も定期的に行なうことが大事。
現在コアなおぢさんファンがついているけど、一定の女性ファンを取り込まないとね。はて、ワタシは誰に語りかけているのかな?
春一番が吹いた日 The Chang
…ふっと、大学生の頃の風が心に吹き込んでくる歌詞…
70年代の頃に 大学生だったお姉さんが
昔 よく聴いていた
懐かしい あのメロディ
フッと口をつくような
そんな曲を沢山用意したんだぜ
「春一番が吹いた日」ーThe Changによる1995年7月リリースの曲。作詞・作曲・ボーカルの石井マサユキ氏は1968年生まれ。
渋谷系と呼ばれる、ファッションとリンクした「オシャレな」サウンドが支持を受けていた当時のミュージック・シーンにおいて、はっぴいえんどが描いたような、70年代初頭の「ポスト・モダン」以前の、東京を一地方とみなしスナップするといった空気をかもしてくれていた、そんな存在だった。
同じ匂いがしたのがサニーディ・サービス。もう少しメジャーに立ち位置をおいたのがスピッツだった。そして、メジャーで支持されたスピッツ以外は、解散してしまっている。
ところで……
【春一番①】
立春から春分の間、その年に初めて吹く南寄り(東南東から西南西)の強い風のこと
【春一番②】
1971年~79年の間、関西を中心としたミュージシャンの手によって、大阪天王寺公園野外音楽堂で開催された大規模な、ジャンルにこだわらない野外コンサート
※ただし開催時期は5月GW期間中
春一番②は。1995年1月に発生した阪神淡路大震災をきっかけに、同年5月に「春一番'95」として大阪城野音で、翌96年からは「祝春一番」として服部緑地公園野音に場所を移して開催されている。
春一番①は、平成最後の当該期間の最終日となる今日の時点で、関西には吹いてくれてはいない。「きっしょ―節目・けじめ」なきまま春爛漫となっていくのだろうか…
劇場もりあげ隊ネタバトル 2019.3.13
桂春蝶独演会 於天満天神繁昌亭
2月つごもりの昨日、桂春蝶師の独演会に出かけた。ところは天満天神繁昌亭。師から落語会に何回かお声掛け頂いてたのだが、2年ほど足を運べずにいた。今回はどうにも師の芸を味わいたくなって、チケットを取り置き頂きいそいそと出かけた次第。
高座では本ネタの中村仲蔵をより理解できるため、中入り前の2ネタに本ネタへのフリを巧妙に埋め込んだ噺を、茶目っ気たっぷりに進めていた。
落語の内容について評するだけの筆力は私にはなくはばかられるので、本芸以外の印象について記しておきます。
一言。春蝶、ますます艶っぽくなってきたぞ。
昨年はいろいろあってかなりの心労が押し寄せたと思うが、それが芸人としての懐をますます深くしたのではないか。加えて年齢も円熟味が増す頃に差し掛かったこともあってか、声の色艶はもとより噺の間(ま)と仕草に、初老の男にもドキッとさせられる瞬間も二度三度…またファンへの応対も、木星の如き大きな贔屓筋のみならず、私のようなイトカワの如き小惑星まで大事にして下さる。
中入前後でモードを変えて演じている師を眺めていると、前半の噺では黄色、本ネタの中村仲蔵ではオレンジ色の雰囲気に包まれていたように感じられた。
噺の概要は以下の如し。上方から江戸に下り、精進の末立役者にのし上がった歌舞伎役者中村仲蔵。しかし立役者としての最初の出し物では、客が弁当を食べるタイミングで、殺されるためだけに出てくる、不恰好な浪人という本意な役しか与えられず、周囲からの嫌がらせだと思い込み、大坂へ戻ろうとふて腐れる。しかし最後にその役を自分なりに演じきってからでも遅くはないという女房からの進言にどうにかその気になり、願掛けを続け、最後の日に出会ったある侍の出で立ちと仕草をヒントにその役をアレンジした仲蔵。
しかしかつて目撃したことのないその役のあり方に、客の反応がしらけていると勘違いした仲蔵。いよいよ大坂へ宿替えをする用意を始めたところに親方からお呼びがかかり、お褒めを頂く。客の反応がなかったのは、感動してリアクションがとれなかったのだった。
この噺からは春蝶師の東京移住、そこでの噺家としての活動にどこかオーバーラップする部分が読み取れてしまうのだ。
師から一度食事をとおっしゃって頂いているが、断酒したこともあり気後れしている私だが、やはりこの「艶に磨きがかかってきた」噺家春蝶の話を聴いてみたいと、改めて思う次第だ。
本ネタでは、周りを気にしながら眼鏡の下の水分をハンケチで拭う初老のオトコがいたそうだが、何か?
若手お笑いバトルステージ観戦記 その1:ゲレロンステージ(東京) 19.02.16
2018年春に東京進出したよしもとクリエイティブエージェンシー所属「大自然」さんの単独ライブを観戦にお江戸詣でをした。そのついでと言ってはナンだが、東京の若手芸人に触れてみたいと、3つのバトルステージを観てきた。素人ながら、寸評を記しておこうと思い、2回に分けて記事にした次第。
【ゲレロンステージ】
2月16日(土)14:00~
場所:新宿ハイジアv-1(70席…固定63席)
入場料は大阪吉本の若手芸人バトルの場「UP TO YOU」、「MEKKEMON」と同額500円。木戸口で渡されるのは採点表のみ。57組がエントリーされ、出演者名の右側に「面白かった5組に○をつける蘭」がある。持ち時間は3分で、それを超えると照明が薄暗くなり、その10秒後くらいに完全に照明が消される。
『ゲレロンステージ』はK-PROが主催する、フリー・アマチュア不問の芸人を中心としたバトルライブ。来場者による採点上位入賞者はK-PRO主催ライブに出演できることを企図している定期的に開催されるイベント。ここを足掛かりに芸を磨き知名度を上げようとする老若男女、芸歴も関係ない、芸人のエネルギーがうずまく空間となっている。年齢を重ねてしまった悲壮感漂う芸人や、他事務所で芽が出ずここにかけようとする芸人から、全く無垢な状態の芸人まで出演し、観る側としては単に「笑いに来た」というお気楽な気持ちで入場すると、独特なエネルギーに圧倒されてしまいそう。そんなバトルライブだ。
出演者について、当初東京だからコントが多いのかと踏んでいたが、意外と漫才形式をとる演者が多いこと(6割くらいか)、ピン芸人はフリップ芸が3・4割程度。私見だがフリップ芸はある程度の場数を踏まないと、ネタのチョイス、声の強弱を含めた話術、絵のクオリティ(逆張り…ヘタをウリにすること…も成立するが)、フリップをめくるタイミングと正確にページをめくる技などが前提となるため、少し余裕ができた芸人が取り組む芸だと思われ、芸人として次の展開を求めるバトルステージで勝負する形式ではないのかもしれない。
素人の分際で芸を語ることはおこがましいのだが、来場者の評価が彼らの評価に直接つながるということなので、寸評をしていいと思いこのように書いている訳だが、感じたことを率直に言うと、出演者の「腕」はそれこそピンからキリまで差が一目瞭然。
初見の来場者は出演者の所属や芸歴などは一切わからず、目の前の「料理」を味わうだけ。つまり評価にバイアスはかからない。ただし大阪芸人を愛する者としては、ついつい関西弁が出てきたりすると、ほほえましいと感じた場合は若干ひいき目の評価になったり、逆に関西出身ながら東京色に染まり切ろうとしている顔が見えたりすると、つい辛い評価になったりするのだが。
ワタシが〇をつけたのは「コンボイコンボイ」、「モリコウヘイ*」、「カレーナポリタン」、「ひょろし*」、「フルフロンタル」の5組。「*」はピン芸人で、あとは漫才形式の演者。以下漫才、コントの順で投票した芸人さんについて寸評しました。
なぜこのクラスのステージに立っているのか不思議なくらい出来上がっている。吉本で言えば「セルライトスパ」と同じくらいの安定感がある。後に検索してみたところ、現在フリーだとのこと。なるほど、バックアップがない中、あらゆるチャンスを求めての出演かと合点がいった。
松村氏ツイッター:コンボイコンボイ 松村 (@convoyconvoy_m) | Twitter
おばた氏ツイッター:コンボイコンボイ おばた (@convoy_obata) | Twitter
▼カレーナポリタン
コンボイ同様、なぜこのクラスのステージに立っているのかというくらい出来上がっているコンビ。包丁の実演販売をとりあげ、ありがちな包丁持ちの危険さではなく、ひとひねりした包丁の「危なさ」を演じていた。後に検索すると、元名古屋吉本15期生(2002年)で、同期の大阪NSCにはジャルジャルや銀シャリ、プラスマイナス、アキナの秋山(ご結婚おめでとう!)がいる。なるほど、このクラスのキャリアか。現在SMA(ソニー・ミュージックアーティスツ)所属となっているが、同社のHPに彼らは掲出されていない。
神田氏ツイッター:神田一(カレーナポリタン) (@kandahoikorou) | Twitter
同show room:https://www.showroom-live.com/room/profile?room_id=196519
▼フルフロンタル
これも後の検索で分かったことだが、東京NSC19期生(2013年)の主席で、卒業1か月後に単独ライブを開いているとのこと。その後関東方面の劇場での出演経歴はわからないが、テレビでの露出が少ない印象は否めない(実際関西では全く目にしない)。だからここにいるのかと思ってしまう。ちなみに大阪の同期には8.6秒バズーカーがいる。吉本クリエイティブ社は東西NSC成績上位卒業生を「早稲」よりも早い「青田買い状態」で市場へ出荷してしまった年なのかと思ってしまう。東西のNSCさん、「調子こいてた」のかな?
岡田氏ツイッター:フルフロンタル 岡田(@1473939naop)さん | Twitter
黒田氏ツイッター:黒田のフルフロンタル (@kuroff0910) | Twitter
▼モリコウヘイ
ストーカーの疑義がかけられ、話の導入は被害者の立場からスタートするが、相手に訴えかけるという台詞回しの中で、徐々に「コイツはヤバイ奴」というベールがはぎとられていくという展開。中年にさしかかったモテそうにない男のストーカー噺を一人コントにするというのはよくある手法なのだが、言葉のチョイスと「間…ま」が、キモさを増幅させていた。
モリ氏ツイッター:モリコウヘイ(@morikohei0622)さん | Twitter
▼山嵜のおっさん
しまった…当日ピン・フリップ芸人「ひょろし」に投票したけど、時間をおいて文章化しようとすると、ほとんど印象がない。最後まで迷った「山嵜のおっさん」の方が強烈に脳裏に焼き付いている。よってここは「山嵜のおっさん」について。
ピン芸人で、自動車損保会社の事故担当者という設定。「オカマをほられた」(追突された…仮にAとする)被害者と「オカマをほった」(追突した…仮にBとする)加害者をはさんで担当者が両方から話を訊くという設定。話が進展する中、どちらも男性の同性愛者であることが判明してくる。だがAが能動的な嗜好を持ち、Bが受動的な嗜好を持つということがわかってくる。そこで追突事故の慣用句である「お○ま」という言葉が交錯して、担当者がカオスにおちいるというストーリー。最後まで投票を迷ったが、当日はきっと「ひょろし」の芸の圧が強かったのだろう。ワタシとしたことが…
山嵜氏ツイッター:山嵜のおっさん(@YamazakiSeijin)さん | Twitter
※モリコウヘイと山嵜のおっさんは、ソニー・ミュージックアーティスツ内「NEET-PROJECT-びーちぶ」という、「芸人再生プロジェクト」(と言えばいいのか)に所属しているようだ。
この日の優勝は「観音日和」という僧侶コンビ(漫才)、二位が「フルフロンタル」。3時間という長丁場で、腰と臀部を痛めながら観ていた中、なんともはや観音日和さんの出番だけ、トイレに行って、彼らのネタを観られなかった。ワタシのこのマンの悪さよ…
▼ゲレロンステージ